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穢翼のユースティア・クリア [ゲーム]

今回クリアしたのはPS4版ですが、元は2011年に発売されたPCソフトです。
この辺りの年は、シナリオ重視でプレイするなら18禁PCソフトがいい、というのが私の中にあって、萌えゲーアワードの最優秀賞作品を買ったりしていたのですが、この作品は萌えゲーアワードにはエントリーしていませんでした。でも、ネット掲示板で「今年の18禁PCソフトの中でどれが1番面白かった?」という話題が出るとこの作品を挙げている人が結構いて、何となくタイトルだけは覚えていました。
それで、割と最近になってPS4版が出るということを知って、じゃあこれを機にプレイしてみよう、となって、買ってみることにしました。

システムはオーソドックスなADV。
立ち絵があり、基本的に会話で話が進んで、選択肢でエンディングが分岐するタイプ。
ただ、分岐するとは言っても順番に登場するサブヒロインたちの話はほぼほぼ本編に組み込まれていたので、実質1本道でした。
サブヒロインと共に生きることを選ぶと謎解きもないままその時点で話が終わる、という仕様で、個別ルートはかなり文章量少なめでした。エピローグ的なものしかなかったです。
しかしながら、謎解きがないのでいろいろ消化不良にはなるものの、その後の本編で起きる不幸も起きないので、ただただハッピーエンドを見たいだけならサブヒロインENDを楽しむべき、という感じもあり、一長一短ありました。

グラフィックは背景も含めて普通な感じでした。
いかにもなギャルゲーハンコ絵なので、気になる人は気になるかな、と。

音楽も悪くはないかなぁ、くらいな感じで、そこまで印象に残る曲はなかったです。

ストーリーの話はもうネタバレしかないので、ここから隠して語ります。

この作品は世界観からして独特で、まず人々は浮遊都市で暮らしており、その中で貴族たちが住む上層と平民が住む下層に分かれていて、世界がかなり狭い範囲で有限であり、そこから逃げることができない、という設定。都市は聖女の祈りの力で浮いていて、地上は混沌で埋め尽くされていると神話で語られているが、実際のところはどうかわからない。
そして、十数年前、都市の一部が崩落する《大崩落》が起こり、下層に住んでいた多くの人が地上に落ちていき、更に下層に陥没した地域が誕生。その場所は牢獄と呼ばれ、隔離地域とされてしまう。
さらに、時を同じくして羽化病と言われる人の背中に羽が生える病気が発生。この病気にかかると治療院に収容されるが、帰って来た人は誰一人いないと言われている。
そんな中、《大崩落》で家族を失った主人公が、牢獄で1人の羽化病にかかった少女・ティアを助けたところから話は始まります。

主人公・カイムは過去に暗殺を生業をしていたものの、現在は何でも屋みたいな立場。
牢獄はスラムよりももっとひどい場所で、道端に死体が転がり、若い女性は娼館で働くのが当たり前。それでも働き口があればまだましな方で、その日の食べ物もない人たちで溢れていて、物資は上層や下層から運ばれてくる物しか頼れないのに、ろくな量が届かない。
ここ最近は地震も頻発していて、再び崩落が起こるのではないかという不安が常に人の心にある状態。

滅びつつあることを予測させる世界の話というのはそれなりにありますが、この作品はそれが特に強いな、と最初に感じました。
窃盗する子供の話とかは可愛い方で、薬に溺れる娼婦の話とか、客に肩入れして規律違反をして殺される娼婦とか、これは地上波アニメには出来ないだろうなぁ、という内容がてんこ盛りでした。拷問とか普通にある世界ですし。
序盤はどれだけ牢獄が酷い場所なのか、というのが延々と語られる感じでした。

そんな牢獄で登場するのが、最初のサブヒロイン・フィオネ。羽化病の患者を見つけては治療院に送る羽狩りと呼ばれる組織の隊長で、牢獄に現れる黒羽という殺人鬼を一緒に探す、という話になっていました。
割と早い段階で副隊長・ラングが黒羽なのでは?、と思っていたのですが、ラングは黒羽の模倣犯ということで、そこはちょっといい意味で裏切られたと思えてよかったです。
その後、フィオネの兄が黒羽だとわかるわけですが、黒羽は治療院で行われている何かの実験の末に誕生した、というところまでしかわからなかったので、フィオネENDを見た後は、これで終わり?、と結構ビックリしました。
また、この時点ではルキウスが全ての黒幕なのではないかな……と思っていました。

2番目のヒロインは、娼婦になりかけていたところをカイムに身請けされて後に医者になったエリス。
エリスはカイムに惚れ込んでいて、カイムに事ある毎にアプローチしているキャラ……かと思いきや、実はそういうわけではなかった、とわかる流れは割とビックリしました。
カイムがなぜエリスを身請けしたのか、という謎解きも2段階用意されていて、展開が上手いな、と感じました。
エリスパートでは牢獄での縄張り争いに関しても一通り決着がつくので、この時点で話が終わっていれば大体の人たちがそれなりに幸せなハッピーエンド、という感じで1番救いのある状態になったように思います。

3番目のヒロインは、都市を浮かせているという聖女・イレーヌとその御付のラヴィリア。
イレーヌは夢のお告げから天使の御子を捜していて、それがティアだとわかったから聖殿に招きたいと言ってくる、という展開。
この辺りから本格的に浮遊都市の謎に迫っていく展開になっていて、大きく引き込まれ始めました。
イレーヌと神官長・ナダルはことある毎に意見が対立してラヴィリアが板挟みになることが多々あるのですが、このやり取りの中で、どうしてナダルはここまでイレーヌをないがしろにしているんだ?、という違和感が出てきました。
イレーヌはごねて都市を落下させるよ?、みたいな脅しをすることも出来るだろうに、それをしないし、ナダルは自分の方が偉いみたいな態度。イレーヌに対して、お前は私たちの言う通りに儀式だけしていればいいんだよ、みたいな感じを貫き通してくるので、聖殿の力関係どうなってるの?、と常に思ってしまう展開でした。

その理由がわかるのがイレーヌパートの後半で、実はイレーヌが都市を浮かせているわけではない、ということが判明。そして、それをナダルも知っている、とわかりました。
この謎解きを見たとき、ナダルの態度について全て納得がいきました。
聖女は民衆のためのカモフラージュ的な存在で、都市の崩落が起きたときに責任を取って処刑されるためだけに祭り上げられているただの聖職者。何の力もないことを知っているから、イレーヌをないがしろにするし、夢のお告げがあったと言われてもまるで信じなかったのだ、と。

最終的に都市の崩落が発生してイレーヌの処刑が決まるものの、こっそりカイムが助けてイレーヌパートは終了。イレーヌとラヴィリアは牢獄で新たな生活を始める……というこれまでのサブヒロインENDと似た感じにはなりますが、このシナリオの途中でメルトが崩落に巻き込まれて死ぬ展開がありました。
死体も出ないし、もちろん別れの言葉もなく、ただそこにいたというだけで死ぬ理不尽。ここにきて浮遊都市と崩落という設定が強く活きてきているな、と感じました。

4番目のヒロインは、王女・リシア。
王は長く病気で臥せっていて、国政はギルバルトという貴族が仕切っており、リシアは操り人形と化している状態。
リシアパートは、リシアが国の現状を知って王として立ち上がり、ギルバルトを政治の舞台から引きずり下ろす話となっていて、ここにきてルキウスが話に大きく絡んできました。
ここではギルバルトが完全に悪の権化みたいな扱いで、ルキウスはそれをどうにかしようとしている正義側の人間みたいな感じになっていて、ルキウスっていい人設定だったのか、とここでちょっと考えを改めました。
また、ルキウスが実はカイムと生き別れた兄だった、というのがここでわかるわけですが、これはちょっと強引な展開かな、と感じました。ただ、その後の展開でルキウスがラスボス的な存在になっていくので、これはこれで仕方ないのかもな、とも感じました。
リシアパートはリシアの個別ルートに入る場合と最終ティアルートに入る場合とで結構展開が違い、リシアルートだと政変が起こってリシアが王に即位はするけれど、浮遊都市の謎については謎のまま。ただ、近衛騎士団団長・ヴァリアスが生存していて子供も生まれ、政変後は度重なる地震も収まって都市が安定して平和になるという展開で、終わり方としてはここで終わるのがベストだったかも、と思わないでもなかったです。

そして、メインヒロインであるティアパートがスタート。
ティアの話が始まるときに再度ОPが流れる仕様で、ここからが本番なのだな、と思わせてくれました。

ティアルートに入ると、都市を浮かせているのは王城に捕らえられた天使の力だと判明し、ティアが本当に天使の力を受け継いでいること、大崩落は人為的な災害だったこと、イレーヌの夢のお告げは本当だったこと、《大崩落》のときに天使の力の大半を使ってしまったためもうすぐ都市が地上に落下してしまうこと、これまで隠されてきた謎に対する解答が一気に出てきました。
都市の落下を防ぐためには、ティアについての研究を進めないといけない、でも研究にはティアの苦痛を伴う、ということで、都市を取るのかティアを取るのかでカイムが葛藤する、というのが主な展開でした。

話が面白くなってくるのは牢獄民が武装蜂起する辺りからで、イレーヌが牢獄民の旗印として立ち上がる辺りはこれまでの展開を非常に上手く利用していて、こういう展開があったからこの作品の評価が高いのだな、と実感しました。
カイムは牢獄民の味方をしたい気持ちもあるけど、都市の秘密を知ってしまっていてもうすぐ都市が落ちることも知っているから、ティアの研究を進めることによって都市の落下を防ごうとするルキウスの気持ちの方がわかるので、どっちつかずの態度になってしまいます。
そして、そんなカイムと対峙したときのルキウスのセリフは衝撃的でした。

「時には理想、時には理屈、時には感情、時には実利」
「コロコロと主張を変え、それなりの正論を吐きながら、生きていく」
「お前には、中身がないのだよ」
「私は、お前と話をしながら、いつもこう尋ねられている気がしていた」
「『自分の行動はこれで正しいですか?』とな」

言われてみると確かにカイムはそんな感じで、決してウジウジしているわけでもないし、その時その時最善だと思うことを選択してきたようには思うのですが、1本通った筋がなかったな、と思い当たりました。
都市落下の全ての元凶だったギルバルトにしたって、かつての恋人だったクルーヴィスを生き返らせたい、ということだけ願って他の全てを捨てていましたし、ルキウスもより多くの人を助けるための選択をすることを徹底していましたし、他の誰もが1つの信念を持って行動する人たちばかりの中で、カイムだけがフラフラしている状態でした。
このセリフを見たとき、この後の展開がどうなろうと、これはこの時点で名作だ、と感じました。
これまでの展開が全て伏線になって襲ってきた感じがしました。

この後、カイムは覚醒してティアを助ける道を選ぶわけですが、そこからのルキウスとの最終決戦はかなり引き込まれる展開でした。
なんやかんやでルキウスがラスボスみたいな感じでしたが、ルキウスの言い分もそれはそれでよくわかるという感じだったので、最後に主人公が敵対した相手ではあるけど、憎むことは出来ない相手でした。
お互いが持つそれぞれの正義を主張して、勝った方が本当の正義になる、という熱い展開でした。

そして、最終的にはカイムが勝ってティアを助けて都市が落ちることになるわけですが、ティアはそれを良しとせずに世界の全てを浄化して世界に溶け込んで消える、という終わり方で、決してハッピーエンドと言えるものではありませんでした。
でも、ティアルートではなかったら、カイムが知らなかっただけで、カイムがサブヒロインたちと幸せな生活をしている裏でティアが新しい天使として都市を浮かせ続ける、という終わり方だったと思うので、都市を浮かせ続けるという以外の終わり方だったのはよかったと思います。

この作品を知ってからプレイするまで10年くらいかかってしまいましたが、プレイしてよかったと思いました。
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