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白銀の墟 玄の月(十二国記)・読了 [小説]

読んだのはもう1年くらい前になるのですが、なかなか感想を書く機会がなかったので、この機会に書いてみます。

十二国記を読み始めたとき、このシリーズは大きく分けて陽子の話と泰麒の話の2つが軸になっている、と考えていました。というのも、このシリーズで2作以上主役扱いになっているのがこの2人だけだったから。
でも、シリーズを読み進めていくとどうも陽子は後々「黄昏の岸 暁の天」で泰麒を助けるという役目があるために事前に掘り下げられていただけで、実際は泰麒が大きな軸になっている、というのがわかりました。
泰麒は生まれる前に蓬莱に流されたものの「風の海 迷宮の岸」で蓬莱から連れ帰られて王を選んだわけですが、「黄昏の岸 暁の天」で王とともに行方不明になって再び蓬莱へ流れてしまます。最後の最後で麒麟として全ての能力を失った上で再び崑崙に帰って来るわけですが、その再び蓬莱に流れたときの暮らしが「魔性の子」で描かれていたわけで、これはもう泰麒の話なんだな、と。そもそも「魔性の子」が1番早く出版されているというのもありますから、ここまでの十二国記は「魔性の子」の中の泰麒がなぜそういう立場に置かれているのかを壮大に説明する前振りだったのかな、とすら思いました。

※ここからネタバレありです。

で、今作「白銀の墟 玄の月」は全ての能力を失った泰麒が帰ってきた後の話。
本来泰麒が選んだ王である驍宗が治めるはずだった戴国は偽王の阿選が治めている……はずだったのに、いろんなものを放置して阿選は城の奥に閉じ籠ったまま。驍宗の味方を徹底的に排除する恐怖政治を敷いた後、全てを放り出してしまったようで、国の機関はかろうじて官僚たちが回している状態。
そんな中で泰麒が戴国に帰っては来るものの、角を失っているので本来感じるはずの王の気配が感じられず、わずかに残る驍宗の最後の目撃情報を追っている、という絶望状態から話はスタート。

この状態からどうやって驍宗を見つけ出すのかと思いながら読んでいると、次々に新たな問題が出てきます。
全く政治をしなくなった阿選は実は死んでいるのではないかという疑問が出てきたり、仲間と一緒に驍宗を捜していたはずの泰麒がいきなり単独行動で城に乗り込んで、阿選こそ新王だと宣言したり、戴国の片隅で大怪我をした武将らしき人の描写が度々入って来て、その人が亡くなったり。
阿選が生きているとわかったらわかったで、なぜ政治を放り出しているのかが不明なまま。驍宗を殺してまで手に入れたかった王座なのに、驍宗の信奉者たちを排除する以外何もしないのはなぜなのか。
ブラフと真実が入り乱れて話が進んでいくので、片時も目を離せない状態になり、ついつい先を読み進めたくなりました。

それで話の主軸である驍宗の探索が続くわけですが、驍宗は最後に目撃された場所からどこかへ落ち延びているから死んでいない(王が死んだときに鳴くという白雉が鳴いていないので)と思われていたのが、実は同じ場所に留まり続けている、とわかったときは、なるほどな、と唸りました。
この世界では王になると神籍に入って不老不死になるので、即死するような攻撃を受けない限り死なず、餓死もない。なので、満足に食料もない出口のない洞窟の中でも生きていられる、という。
大怪我をして亡くなった武将はブラフ、慢性的な物資不足の貧しい戴国であっても神に祈ってお供え物を川に流す親子の描写は単なる情景描写ではなく、そのお供え物が巡り巡って驍宗の元に流れ着いていろいろと役立つなど、実はそっちが伏線だったのかというあって、本当に飽きさせない展開でした。

また、読者として既に植え付けられていた麒麟とはこういう生き物だという先入観によっていい意味で騙される展開も多くて感心しました。
例えば、麒麟は慈悲の生き物で基本的に人を疑わない、というのがこれまで何度となく描かれてきたので、麒麟は嘘をつかない=泰麒が阿選が新王だと言っているのだからそれはもう真実なのではないか?、と思ってしまうわけですが、実は蓬莱で嘘にまみれた人間世界でもまれた泰麒は平気で嘘をつくようになっていて、阿選が新王だというのは嘘だとわかります。
そして、自らが選んだ王以外には決して跪かない麒麟である泰麒が阿選に対して血を流しながらも叩頭礼ができたのは角が失われているから可能だったのかな……とおぼろげながらに考えていると、最後の最後で実は角が復活していたことがわかる辺りは、本当に読者の心理誘導が上手いな、と感じました。
麒麟は血の穢れを最も嫌うという性質についても最後の最後でどんでん返しに使われていて、そういう風に使ってくるか、と感心しきりでした。
ただ、この辺りは「魔性の子」をちゃんと読んでおいた方がいいだろうな、と感じました。崑崙で蝕を起こして行方不明になったときの泰麒のイメージのままだとちょっとギャップがあるかも、なので。

作品としては今後短編集が出るとのことですが、長編としてはこれが最後のようです。
慶国も戴国もそれなりに明るい未来が見えているところなので、これで終わりでいいのではないかな、と感じています。
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